『そういえば、さっき橋詰さんが結婚されたって話で盛り上がってましたよ』
直球すぎただろうか?遠回しに聞くというのが難しい。
『振られた、婚約破棄されたよ』
『えっ、なんでまた?』
『さあねぇ〜。「貴方と人生を送る自信が無い」だってさ、俺だって自信なんかないよって言ってやろうかと思ったけどまぁ、ややこしくなるだけだしねやめたよ。男前らしく引いたよ』
『確かにややこしいですね。こんな男前を振るなんて余程の美人さんだったんですね』
『まあね、俺が選ぶぐらいだからね』
ああ、この人は何時もそうだ真剣に話したかと思うと耐えられなくなったのか、すぐ冗談に走る。それがまた胸をくすぐる。
『でお前こそ相手出来たの?まぁどうせまだだろうけどな』
『好きな人ぐらいいますよ』
どうでもいい嘘が、たいしたことのない見栄が、詳しく聞いて欲しいという思いで言葉にでる。
『ふ〜ん、いいね。また話聞かせろよ、メルアド知ってるだろ?』
『昔貰ったので変わってなければ大丈夫だと思います』
心ではガッツポーズをしながら冷静を装う。それからたわいのない話をして飲み会が終わった。橋詰さんはふらふら色んな人の所に顔を出していた。
『お〜い、なおちゃん二次会行くだろ?』
『すみません。明日仕事なので帰ります。』
『マジで!そっかぁ残念。じゃあまた今度だな』
『そうですね、機会があれば行きますよ』
不甲斐ない、次はいつ会えるかすら分からないのに機会だなんてよくもまぁ、口から出たものだ。
『おう、じゃあまたな』
『はい、お疲れ様です』
やはりこの人は清々しい。名残惜しいのはいつもの事だけについ後姿を眺めてしまう。
『どうだった?飲み会』
親友が気持ちを察してくれたのか、珍しく話題をふってきた。
『飲み会は全然、でも久しぶりに会う人ばっかりで近況報告が面白かったよ』
『奈緒子はお酒飲まないもんね、そのくせ飲んだ人と同じぐらいはしゃぐしね』
『うん、はしゃげる』
クスクスっと暖かい笑いが込み上げる。
『で、橋詰さんは?』
『フリーはフリーだったよ』
『というと?』
『婚約して破棄されてフリーだって』