九歳の娘が、突然大泣きをした。
理由(わけ)を聞いても、泣く事を止めない。
落ち着くのを待って、もう一度理由を聞いた。
「ある絵が、頭の中に浮かんで来て、恐い。」と言う。そのある絵とは。
思えば、三ヶ月位前に、スーパーの中にある本屋で、お互いに本を探していた時、娘は「りぼん」「マーガレット」とか言うたぐいの雑誌コーナーに居た。
見ると、「微熱」と言う本を見て、赤い顔をしている。私が横から、「何読んでるの?変な名前の本ね。」と言うと、「違うよ、まちがえただけ。」と、怒ったような口調で言い、他の雑誌を持って、私に渡した。
その日は、それで終わった。その本の内容は、全く知らないでいた。
「ある絵」とは、その本の中に書いてあった、マンガの一コマである。娘が言うには、
「男の人が、女の人のおちんちんの所に、自分のおちんちんを入れて、恐い顔しているし、女の人も泣いている。」
ショックだった。そんなリアルなマンガが、あの子供向けのマンガの中に、同じように置いてあったなどとは、考えてもいなかった。
娘に「それは、セックスって言って、愛し合った男女が、行なうものよ。」
あなたの父母も、それをしたから、あなたが生まれたと言う事。今までは、キスをすると子供ができると教えていたので、ここで、訂正をした。
さらに、マンガにあったように、恐いものではない、おおげさに書いてあるだけ。
人間として、自然なもの、大人になれば、好きな人ができて、それで、分ると思う。
など、隠さず、恐いものではない事を、饒舌に話していた。
この話は、わたしの主人には、話していない。こんな早く、娘がセックスの事を理解している事を、主人が知ると、いたたまれないのではないかと思うからである。
娘は、それ以来、その話には、触れない。
私も、話さない。私が言った事を理解してくれたからだと、勝手に思っている。
私と娘が、初めて主人にした「隠しごと」である。4年生になった娘が、このごろ、少し遠くを歩いているような気がする。