大資の絵本の読み聞かせは、始め、
一人二人の子供をむりやり連れてきては座らせ、
聞かせるというよりは、むしろ、聞いてもらう、という感じであった。
しかし、つっかえていた言葉も、だいぶ緊張が解けてくると、
感動溢れて、そこはとても穏やかな優しさの流れる空間となってきた。
そうすると、子供たちも少しずつ自分から集まるようになり、
何度も聞いている子供たちの中には、
自分のお気に入りの本を差し出すようになった。
この施設のほとんどの子供たちは、
本当に親から見放された、見捨てられたような子供たちである。
親が面談に来るなんてことはほとんどなかった。
この子たちの目の前で、書面にサインと捺印を押し、現金を置いて行った親たちである。
誰もが喪失感を持っていたし、
子供たちの目を見れば、失われた、壊されたものの大きさは一目瞭然であった。
誰もが、ケンカをする訳でなく、仲間意識を持つ訳でもなく、
大勢の中にいて、一人で生きていた。
これ以上大切なものを作って、それを失う悲しみを避けるかのように。