しばらく無言が続いた後、怯えたような弱々しい声が届いた。
「た、助けて…
僕、あれは、事故だったんだ。
別に、笹木を攻撃しようとか、怪我させたかったんじゃなくて…只、驚かせてやろうって…
でも、驚いた笹木はひっくり返って…」
吐き出すように語った野田の声はそこで途切れた。
そこから先は容易に想像出来る。
『IC』から警告状が届き、怖くなりこの竹藪に身を潜めていたのだろう。
「助けて…頼む…」
「わかった。
俺は、『IC』の人間なんだ。
柳支部の佐倉に事情を説明するといい。
彼なら君の話を聞くよ。」
火葉――【時雨】の声が夜の竹藪にこだまする。
「佐倉…?」
「そう。
終始仏頂面だけど彼なら君の声を聞いてくれる。」
「…出てきた。」
早稲田が低い声で呟く。
彼の視線を辿ると竹藪から坊主頭の弱気そうな中学生くらいの少年が出てきた。
「あの…名前を」
「あぁ、手塚火葉。」
「手塚…火葉…
ありがとうございました。」
「【時雨】、野田くんを支部まで送ってあげたら?」
【杠】の提案で【時雨】と野田少年は連れだって竹藪を出ていった。