大資が、
「今度、施設の中で、絵本の『読み聞かせ大会』をしますよ。」
と話した時、
塚本は他のことを考えていた。
「りらをその中で歌わすことはできないかな。」
あれから数カ月が経ち、
森の小道の歌を、りらはすっかり自分のものとしていた。
歌うことが前よりも自然なことになっていき、
息をすることの代わりのようであった歌が、
前よりもっと、
自然な感覚となっていた。
「歌があれば、もっと人前でも立つことができるのでないかな。」
うたを歌う時のりらは、
親しい友達が寄り添っているような、
そんな安心感があった。
『読み聞かせ大会』の当日、
めいめいが、好きな絵本や本を持って来て、
口を大きく開けて、
自信いっぱい発表している最中、
りらの足の震えは止まらなかった。
「まだ早かったかな。」
塚本は、こころの中に不安が入ってくるのを追い払い、
「大丈夫」と祈るような気持ちで、
りらの順番までの間、
その横顔を見守った。
「最後のトリになんて、順番を持ってこなければよかったなぁ。」
本番を待つアーティスト本人のように、塚本自身が緊張していた。
りらの方の緊張と言えば、歌うことよりも、
むしろ人前に立つことができるのか、の話だった。
「声の大きさが良かった」
「表情が良かった」
「待ってる間にしっかりと他の人の話を聞いていた」
結局はそれぞれに評価を与えて、子供たちみんなに表彰を終えた後、
大資は、塚本の方を見て、
「大丈夫?」
と目配せをした。