「それでは、今日読み聞かせをがんばったみんなに、
歌のプレゼントです。」
大資が大きな声で言うと、
子供たちはワァーと喜んだ。
そんなみんなの喜びの声は、りらには聞こえず、
沢山の人の中にいること、それ自体が少々ストレスのように見えた。
そんな中でも、
「がんばれ、りら。」
言葉にすることの出来ない思いの中で、
祈りながら、
みんなの前にりらを連れて行くと、
子供たちの目が、りら一点に集中した。
さっきまで賞を受けていたみんなの顔は輝いていたが、
りらの顔はうつむいていても、ひきつっているのがわかった。
それでも、りらの手を放し、少し後ろに立った塚本の心に、
もう恐れはなかった。
「大丈夫、りらには、
神様と天使の歌声がある。」
そう心の中で、確信して、
大資に合図を送ると、
いつも繰り返し聴いていた『森の小道』の前奏が流れた。
「あ、顔が変わった。」
施設の誰もが思った。
りらにとっては、
音楽が空気そのもの。
自分を包み、
心に息を吹き込んでくれるもの。
次第に、自分の声が周りを包み始めると、
りらは安心と落ち着きを取り戻した。
”自分の声に癒されている”
塚本はある時から、そのことに気付いていたが、
りらの声自体が、
りらの心を癒していった。
「すごい。」
次第に、子供たちの小さな声が漏れてきた。
りらの声は、
周りの空気の色を変える力があった。
透明なシャボン玉に、
たくさんの色づけをして、
手元に届けてくれるような、
空気いっぱいを、
ステキな色へと変えてくれた。
時々、子供たちが、
周りを見渡しては、
一緒に歌っている人がいないか、探しだした。
そして、りら一人しか歌っていないことに
不思議そうな顔をして、
また、りらの声を聞いた。
「あ、子供たちにも聞こえているのだな。」
塚本は、そっと笑ったが、
他の施設の大人たちは気付いていないようだった。