「…あー、腹減ったー。伊織、なんか作れよ」
「お前の母さんが作ってくれているだろう。早く食べに行け」
「今日はお母サマは部屋に引きこもりデーなんですー。締め切り明日なんだと」
「そうなのか?なら朝ご飯は?」
「いっつもこーいう日は作らない。テキトーに作るか残りもの探るか食わないかのどれかだな」
「……母さんは、冷たいのか?」
柔らかかった雰囲気が固いものに変わったのに気付き、冬夜は違う違うと手を振る。
「いや、そんなんじゃねぇよ。全然良い人。ご飯作れないこと申し訳なく思ってるみたいだし。普段は作ってくれるよちゃんと」
「そうか。なら、いい」
「……………」
普段は冬夜に対する扱いが酷い伊織だが、ふとした時に彼女の「弟」に対する愛情は「心配」という感情によって過剰に表れる。
それは時に冬夜を苛立たせることすらあるが、本気で迷惑に思ったことは一度だってなかった。
決して表には出ない彼女のそんな優しさが、ひそかに好きだったから。
「…ま、仕方ないか」
「何だ?」
「いや別に?」
嫌がってはいるものの、実際伊織が来なくなれば本当に困るのは自分かもしれない、と思い冬夜は気付かれない様に苦笑を漏らした。