『ねぇ遊んで遊んで遊んであーそーんーでー』
「ああもうわかったようっせえな!また隠れんぼでいいか!?」
『やったー!!かっくれーんぼーっ』
冬夜に断るという選択肢などない。
耳元で何度も高い声を張り上げられて気分は最悪だった。
勿論これまで断ったことなど何度もある。しかしその結果待っていたのは幼子特有の「駄々っ子してしてリピート攻撃」であった。
命名、冬夜より。
「ったく朝から…っ…おい、伊織の足を踏むなって!」
伊織の横を通り過ぎ、部屋を出ていく彼に、伊織は己の足を少し見つめてから言った。
「踏まれたのか。別に私は構わんからいいぞ」
「駄目だ!こういうのは小さい頃から躾とかないとだな、大人になってから常識のない人間に…」
『ウチ大人にならないもーん!ずっと子供だもーん!』
「こいつは大人にはならんだろう」
二人の声が重なり、そこで冬夜は自分の馬鹿な発言に気付いた。
「あーそっか…そうだったな………」
「こっち」と「現実」の境目が、たまにごちゃごちゃしてわからなくなる。
なるべく気をつけてはいてもやはり冬夜には難しいことだった。
目に見えるものは透けてもいないし光ってもいないし、どこが人間と違うのか正直見分けがつかない。
小さい頃はそれに戸惑い、そのおかげで大変な思いもたくさんしたが、やっとこの年になって彼なりにうまく折り合いをつけられるようになった。
だから、
脆く簡単に崩れてしまうその壁を壊さないために、彼はその自らの「異常」を隠した。
そして、彼女もまた。