あの人の機嫌ひとつであたしは右耳の聴力を失った
その代わりに何か得たものはあったのだろうか
それは今でもわからない
大人の顔色を窺い、周りの空気を読み、
望まれている自分を演じる
それがあたしに課せられた生き方だった
普通の人間になら備わっているであろう何かが、あたしには大きく欠落している
欺く
騙す
嘘をつく
それが日常だったあたしにはそれらに対して罪悪感がない
犯罪を犯すことにも躊躇いはない
父が母の首を絞め、殺人未遂で逮捕された
それがあたしの記憶の始まりだ
つづく