スタートから半分、ちょうど折り返し地点に康太は差し掛かった。ヤベー、俺のスタミナが徐々に弱っていく。折り返し地点に立っている、50代のおじさんが「頑張って!」と一声かけてくれたが、あの人は俺らの気持ちや苦しみは本当に分かっているのか。気楽そうに頑張れと声をかけるなら、お前も走ったらどうなのか。きっと走っていない奴は俺らの気持ちなんて分かりゃしないんだ。
今、半分かぁ。ここで止まってリタイアしたい気分だぜ。しかし、ゴールまで完走するという強い気持ちが彼を前へ前へと駆り立てた。
彼の頭の中に色々な考えが駆け巡ってきた。あー、暖かいカレーライスが食べたい。いや、エクザイルのTiamoをカラオケで歌いてぇー。いや、家で飼っているチワワのコロンとじゃれあいたぇー。いや、彼女の詩織と水族館にデートしてその夜は・・・卑猥な事も考えた。いや、俺はタヒチの水上コテージでハネムーンをしたいんだぁ−。しかし、今の彼にはそれが出来なかった。今、俺は走っている。これが終わらない限り、それらの妄想は実行できない。
スタートから4分の3の所まできた。ゴールはもうすぐ、そこで道の片隅から「康ちゃん、頑張れ!絶対にゴールまで走り切ってやる。その後はお前と水族館にイルカを一緒に見に行くんだからな。
康太は詩織に手を振った。あと少し、絶対に走り切る。