倒れ込んで大の字になる八雲。
その有様に大澤が愁眉をよせると、哲哉はボールを手にして得意げな顔をした。
「八雲っ!」
頭を持ち上げた八雲に哲哉がボールを投げると、彼は手前でワンバウンドしたボールをキャッチして跳び起き、腕をぐるぐると回し始めた。
「お〜しゃっ、始めっかっ!」
元気にマウンドへ向かう八雲に、哲哉は笑みをうかべた。
「たとえ瀕死の状態でも、ボールさえ握らせれば元気になりますよ、あいつはね」
八雲らしいと思い、大澤もつられて笑みをもらした。
「それで、何の練習をするんだ?」
大澤が率直に質問すると、こたえる哲哉はあっけらかんとこたえた。
「やるのは三角ベースですよ」
「……三角ベース?」
予想外のこたえに聞き直した大澤へ、哲哉は笑顔で頷いた。
「みんな遊ぶために集まってるんです。だから自由参加なんですよ」
しばし考え込む大澤。それを、哲哉は覗き込むようにうかがった。
「……大澤さんはどうします」
気をつかって尋ねた哲哉に、大澤は笑みをうかべた。
「今日から俺も野球部の一員だ、当然参加するさ」
「あーっ!」
突然背後であがった声に、哲哉と大澤は驚いて振り返った。
「やっぱり集まってやがった。朝練があるなら、ちゃんと俺にもいってくれよなっ!」
自分と同じような事をいって怒る小早川に、大澤は哲哉と声をだして笑いあった。
腹筋が引き攣るほどに笑う大澤は、ずいぶんと久しぶりに笑った気がしていた。