「耕太、」
耕太は巨人を見据えたまま小さく返した。
「どうした。」
「屋根の一部を壊して。」
巨人がもう一歩を踏み出し、その衝撃で美香はソファーに倒れ込んだ。耕太は慌てて美香の服を掴んでその身をソファーの上に引っ張りあげた。
ソファーの上で猫のようにうずくまった二人は、間近で顔をつき合わせて、互いの瞳をのぞきこんだ。どちらの目にも虚ろな闇が沈んでいたが、美香のそれは若干明るかった。さすがだな、と耕太は思わず苦笑する。
「屋根を壊したらあいつがどうにかなるのかよ?」
「たぶん。わからないけど、他に何も思いつかないの。とにかく直接攻撃するのだけはダメよ。怒らせたらきっと殺されちゃうわ……。」
巨人はあと一歩踏み出せば、美香たちのソファーを踏み砕く距離にまで来ていた。行動を起こすなら、今すぐに決断しなければならない。
耕太が言おうと思って口にしかけたところを、美香は先回りして言った。
「大丈夫よ。ここで力を使って、あんたが気を失っても、私がちゃんと守ってあげるから。」
「……女に守られるなんてダセェな。」
「耕太、」
「わかってるよ。」
耕太は大きく息を吸って吐くと、据わった目で美香を見つめた。
「後のことは頼む。」
「ええ、任せて。」
巨人が大きく足を振り上げた。その瞬間、耕太は素早く身を起こすと、床に積もっている埃をひとすくい掴み、掴んだ拳を天井高く突き上げた。
埃から想像された光が、カァッと耕太の拳を照らし出し、そのまま強いエネルギーとなって真上に光が走った。
ドオンッ!
大砲を撃ったような衝撃が天井を貫き、屋根を破壊した。館の屋根には大穴が空き、バラバラと落ちてきた屋根の欠片から美香を守るようにその上に覆い被さり、耕太はそこで意識が途切れた。
慌てて耕太をどかした美香は、彼の上に降り積もった木片や木屑を払いのけた。幸い小さなものばかりであったため、耕太は怪我をせずに済んだようだ。
「よかった……。」
安堵した美香は、その時ようやく巨大な影が消えていることに気づいた。バッと顔を上げ、巨人の姿を確認しようとしたが、そこにはもう誰もいなかった。
(やっぱり家がキーポイントだったんだわ。)
未完成の想像は、家の外に出ることができない。屋根を壊し、外気に触れさせたために、その姿は霞となって消えてしまったのだろう。