「寒くなったなぁ。」
「もぅ冬がソコまで来てるからねぇ♪」
手をすり合わせて寒そうにしている秀人に、私は車に常備してある膝掛けを掛けた。
「バカ!そんなん掛けたら俺寝ちまうから〜」
「それは困るなぁー。目的地も決めて無いんだから!寝るなら決めてからにしてょ〜ってか、とりあえずココ離れなきゃねぇ」
「そぉだな!とりあえず山越て行くか♪とりあえず、あっちに着いてから場所は決めるでも良いでしょ!!」
多くは語らないが、秀人もまた私と同じく、二人きりという状況を考えている様だった。
会社以外で初めての2人きりでの空間に緊張と期待があったものの、後ろめたさも感じさせない秀人に少し安心した私は平常心を取り戻せた。
秀人にとって私の存在は頼める部下であり、私にとっての秀人は、仕事上でも人生の上でも尊敬できる上司であるのだ。
そうだ、それでいいのだ。それ以上望まない、望んではいけないのだ。
私は熱く込み上げる胸の思いにフタをするように言い聞かせ、この心地よい2人でのドライブを楽しむ事にした。