「寒くなったなぁ。」
「もぅ冬がソコまで来てるからねぇ♪」
手をすり合わせて寒そうにしている秀人に、私は車に常備してある膝掛けを掛けた。
「バカ!そんなん掛けたら俺寝ちまうから〜」
「それは困るなぁー。目的地も決めて無いんだから!寝るなら決めてからにしてょ〜ってか、とりあえずココ離れなきゃねぇ」
「そぉだな!とりあえず山越て行くか♪とりあえずゎあっちに着いてから場所を決めるでも良いでしょ!!」
多くは語らないが、秀人もまた私と同じく、二人きりという状況を考えている様だった。
会社以外で初めての2人きりでの空間に緊張と期待があったものの、後ろめたさも感じさせない秀人に少し安心した私は平常心を取り戻せてきた。
秀人にとって私の存在は頼める部下であり、私にとっての秀人は、仕事上でも人生の上でも尊敬できる上司であるのだ。
そうだ、それでいいのだ。それ以上望まない、望んではいけないのだ。
私は熱く込み上げる胸の思いにフタをするように言い聞かせ、この心地よい2人でのドライブを楽しむ事にした。
一山越えれば隣の県という県境のこの土地を離れ、出発から一時間弱、目に付いた居酒屋に私達は入ることにした。
「いらっしゃいませ!!」
清々しい顔をした店員が出迎えてくれた。秀人は店内を見渡すと、店員に案内される前にソコが良いと指差し、さっさと座敷にあがり、生中とウーロン茶を頼んで腰を下ろした。
「秀人さん、座敷好きだよねぇ。」
お絞りで手を拭きながら私は言った。
「だって楽じゃん!!おっちゃんゎ椅子だとカッタルイのょぉ」
「しょぅがなぃなぁ〜。アラフォ〜のオジサマだもんねぇ☆って、お絞りで顔吹いてるし!完全たるオヤジじゃないかぁ!(笑)」
と言いつつ化粧もしてない私は、つられて顔を吹く。
「人の事言えるかぁ?真希は〜」
「やぁね!これは、すっぴんの特権だから!」
二人は顔を見合わせて笑った。
いつもと変わらず他愛の無い話で盛り上がる。
話好きの秀人といると会話が尽きる事はない。
仕事の話、家庭の話、テレビの話、野球にゴルフに何でも有りだ。楽しい時間は過ぎていった。