子供のセカイ。135

アンヌ  2010-01-17投稿
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美香と耕太しかいなくなった館は、がらん、としていて、急にさっきの何倍も広く感じられた。屋根の穴から差し込んだ光――月の光だろうか――が、埃だらけの床、巨人が足を置いたところだけ少しいびつに歪んだ床を、明々と照らし出している。
美香は、不思議と寂しくなった。自分たちは今、誰かの想像を消したのだ。“真セカイ”の光の子供の誰かが思い描いていた夢を、跡形もなく消し去ってしまった。
耕太は呑気な顔で寝ている。本当はつらくて、疲れ果てて落ちるように意識を失ったのだと、経験者の美香はよくわかっていたが、それでも普段の強気な耕太からは想像できないほど、その寝顔はあどけなかった。
美香は耕太が寝やすいように、体の向きを整えてやった。三人がけのソファーの内、二人ぶんを使って仰向けに寝かせるようにし、自分は余った一人ぶんのスペースでうずくまり、存外柔らかいソファーに身を沈めた。
静かだった。家の外からさざ波のように微かな音が聞こえたが、別段気にならなかった。さっきまでの緊張が嘘のようだ。美香はようやく肩の力が抜け、すっと瞼を下ろすと、疲れた目を癒した。
(王子とジーナは無事かしら……。)
瞼の裏側に、先ほど別れた二人の仲間の姿が浮かび上がり、美香はぎゅっと体を丸めた。無事だといい。そう願ってやまなかったが、果たしてそんなに上手く行くだろうか?
治安部隊が迷いなく、あっさりと王子を消そうとした時、美香は心臓が止まるかというほど怖かった。『役に立たない』。ただそれだけの理由で他人の存在を消してしまえるなんて、そんなの間違ってる……。
(あの金髪碧眼の子供は、とても敬われていたわ。あの子に危害を加えたりしたら、それこそ只では済まされないはず。)
それでも王子はやってくれた。猫を使って子供を捕まえさせ、危険すぎたあの状況にパニックを引き起こし、美香たちを助けてくれた。
美香は両手のひらを組むと、祈りの形を額に当てた。これまでにないほど、一心に王子たちの身の安全を祈る。
「私たちのことはいいから、どうか、運命の神様、王子とジーナを守ってください……。」
声に出すと、何故かホッと気持ちが楽になった。美香はそのまま穏やかな眠りについた――。

* * *

一方その頃。王子とジーナは美香の願いも空しく、あまり良い状況にはなかった。

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