「お前ってホント、ずっと一緒にやってたみたいに違和感ないよな」
「ありがと。
リョージにそう言われると嬉しいよ♪」
「昭彦も大変やなァ。ライブが終わればソッコー仕事なんてよ」
「…そう思ったらそろそろツケた分を払って頂けますか?康介クン」
「チェッ、藪蛇かよ…」
「あはははっ!ここでもツケてんだぁ」
ライブ終了後は、いつも峠昭彦のお店〈マーキュリー〉で軽めの一杯。
昭彦の本職はお店のオーナー 兼バーテンダーなのだ。
その後で、俺、倉沢諒司のバイト先であるファミレス〈コルス〉で腹ごしらえか…
そうして次に石島康介のバイト先、カラオケボックス〈エコーズ〉に向かうとなると…
常に『客』でいるのは品川恵利花ただ一人って訳だ。
…まァ、それに異を唱える奴はいないけど。
恵利花と言う娘は、サービスする側のさり気ない気遣いをごく自然に受けとめてくれる。
そう、あくまでも『自然』に。
「エリカよぉ‥」「何?」
「お前ってさァ、もてなし甲斐のある女だよな、ホントに」
「…確かに、それは言えてますね」
「俺も賛成やな」
「それ、…誉めてんの?みんな」
「アハハ…秘密です」
「……ま、いっか〜」
俺達は、このままずっと平和にやっていけると信じていた。
だが、周囲の状況は本人達の知らぬ間に動き始めていた。
「村岡か? 俺だ、霧島。あいつらの資料は? ふん、ふん、…判った。
夜中に済まなかったな。
じゃあ、おやすみ」
携帯をパチッと閉じた男は、霧島敬二郎。
霧島は、かつて全く無名のバンドをビッグネームに育てあげた頃の、嵐の様な日々を思い起こしていた。
(また、俺のこの手で、時代を作りあげるのか…)
彼の目には、敏腕プロデューサーだった頃の精悍な光がよみがえっていた。