テレビにすっかり夢中になっていると遠くで微かな声が聞こえた。
「ただいま〜。」
あかりが帰ってきたようだ。あかりは今日、友達と図書館に行く約束をしていたらしい。
「ただいま〜。」
リビングに入るとあかりはもう一度そう言った。
「おかえり……」
俺はテレビを見ながら返事する。その姿は休日の中年親父と酷似していた。
「また兄ちゃんダラダラして、デブるよ、運動しないと。」
「大丈夫だよ、少しくらいダラダラしても。しかも家の家系にデブはいないし……」
妹の心配をよそに同じ態勢でテレビを見続ける。
「後で後悔しても遅いよ。」
あかりは呆れたように言って自分の部屋へ戻っていった。
(これでゆっくりできる……)
そう思った矢先、鍵の解除する音が聞こえる。一瞬の静寂の後、母の声が聞こえた。そして、母がリビングに入ってきた。
「ただいま。あー、疲れた。」
母が長い息を吐き、そうこぼした。
「お勤めご苦労様。」
母はこの時間パートに出かけていた。俺が高校を落ちたことにより始めたらしい。時間数は短めだが、結構キビシイらしい。
「どう?仕事は慣れた?」
珍しく俺から母に話しかける。母は椅子に座り疲れた表情で言った。
「これくらい慣れれば何ともないよ。ただ、もう少し時間がかかるかな。魁は私のことの心配はしなくていいから安心して勉学に励みなさい。」
俺は申し訳ない表情で頷いた。ここまで母に無理させている、そのためにも頑張ろうと心に決めた。
その日の晩ご飯はハンバーグ、俺の好物だった。
(確か、合格発表の時もハンバーグだったっけ?)
そんなことを思い出しながら食べる。いつもの食事は3人で摂る。父は9時前後に帰ってきて、俺達とは別に食べる。
俺はすぐに食べ終わり、いつものようにテレビの前に釘付けになる。その後風呂に入り、11時頃に就寝した。