「着いたら起こしてくれ。」
レールと平行に伸びた長い座席の端に座るや否や、坊主頭を後ろにもたげ、隼人はウタウタと居眠りを始めた。
(コイツ自分から誘っといて爆睡こくとは呆れるな。)
隣に座った青山は対称的に車窓を鏡代わりに髪をいじっている。
間もなく電車が発車し、ひとつ目の駅に着くと、別の高校の女子生徒たちが乗りこんできた。
「ねぇねぇ、あの人カッコよくない?」
「あー、ほらポルトガルかどっかのクリスティアーノなんとかってサッカー選手に似てる〜。」
「うん、とにかくイケメン。イケ様やん、イケ様。」
隼人たちと向かいの座席に陣取った女子生徒たちが、青山を見て騒ぎだした。
(うるせーな、人を見た目で判断しやがって。イケメンイケメンて騒ぎゃ男は誰でもいい気になるとでも思ってんのか、あ?バカ女連中が。
お前らにどうのこうの言われる筋合いなんかねんだよ。)
青山はあからさまに不快感を示し、女子生徒たちを睨みつける。
「うわー恐っ。」
「ねーもうあっち行こっ。」
女子生徒たちは先程より小声で話しながら、離れた席へ移っていった。
「軽々しく好き勝手言いやがって。」
青山はそう吐き捨てると、ポケットに手を突っ込み足を組み直す。
(それにしてもコイツはいーよな。トボケたツラしてスヤスヤと。)
隣であまりにも呑気に眠る隼人に目をやると、少し怒りが収まった。
しばらくして目的の駅に着くと、二人は駅前のロータリーを経て商店街に入っていく。
「なんか機嫌悪そうだな。」
電車内での出来事を知らない隼人がぶっきらぼうに話しかける。
「いや、別に悪かーねーけど?」
口にした言葉とは裏腹に、せっかく収まりかけていた苛立ちが再び込み上げてくる。
5月ももう終わろうかという初夏。二人がぎこちないやり取りで歩いていくと、爽やかな風が商店街の軒と軒の間から、青山の感情を鎮めるかのように吹き抜ける。
「あっここだ。ここ。」
三池スポーツと書かれた看板を隼人が指差すと、二人は店内に入った。