「ま、状況に応じて対応する。それが一番だな。」
そういう奴が一番強いのだ。特にこういった動乱の時代には。
自分で思っておいて、ハントは軽く鼻で笑った。
(『動乱の時代』なんて、絶対にこの“子供のセカイ”にゃあ、訪れねぇと思っていたが……。)
そういうものかもしれない。平和な時代を謳歌している時に、一体誰が好きこのんで戦争のことを考えるというのだろう。きっと死ぬ時がわからないのと同じように、温かくやわらかいものが崩れ去る時というのは、唐突にやって来て大事なものを奪っていくのだ。
ついに階段は途切れ、ハントは地上へ出た。頭上には星空が広がり、昼間より僅かに冷たさを増した風が、むき出しの肌を包むように吹きつける。
闇の中で立ち尽くしたハントは、しばし過去の平和な時代に思いを馳せた。
自分たちの以前の主であり、かつて“子供のセカイ”の支配者であった者の姿を思い出す。小さな子供のような容姿ながら、凛々しく賢明であった遠きかの人の姿を。
「ミルバ様……。」
呟いた声音のあまりの情けなさに、ハントは思わずため息をついた。何を弱気になってんだ、オレは。ハントは中庭を歩き出した。己に割り振られた宿舎に向かう。恐らく仲間たちも監査員を無事に城まで送り届けた後、そこへ戻ってくるはずだった。
明日には覇王へ報告しなければならない。指名手配犯のうち二人は手中に納めたが、残りの二人には逃げられてしまったと。
「……うまく言い訳しなきゃな。よりによって光の子供を逃がすとは、ついてねぇ。」
覇王は細かい事情をハントに話したりしなかったが、光の子供に関してはやけにこだわりがあるような様子だった。間抜けな失敗談が知られれば、ハントだけでなく、治安部隊の他の仲間たちも消されかねない。ハントは目を細めて表情を暗くした。
(そう、舞子様と覇王様の時代が始まって、真っ先に処刑されたミルバ様のように……。)
「ハント!」
切羽詰まったような呼び声に、ハントは素早く振り向いた。裸足で草を踏み締め、長い髪の若者――ハントの一番の理解者であり相棒でもある、ルキという名の若者が、珍しく焦った様子でこちらに駆け寄ってきた。
「どうした?お前、確か監査員を送っていったんじゃ、」
「覇王様が夜羽部隊を送り出した!」
ルキの言葉に、ハントの顔色はさっと青ざめた。