息子と 死体と 焼却炉

兼古 朝知  2010-01-26投稿
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あるところに
親子が住んでいた。

片親ながら
母は息子を守り抜き
優しい息子に
育てようと努力した。


しかし息子は
そんな母の
願いとは裏腹に
禍々しく育っていった。

息子は他の生物の
命を奪うことを
躊躇わなかった。

群がる鳩の
頭を握りつぶし
住みついた野良猫を
包丁で刺した。

母は息子を
責めなかった。

何故 母は責めないのか
息子には
わからなかったが
母が何も言わぬのだ と
命を奪い取ることは
エスカレートしていったのだ。

ある日 息子は
喧嘩した
クラスメイトを殺した。

死体の置場所に
困ったので
家の焼却炉に捨てた。
その焼却炉は
何年も使われることなく
家の隅に
佇んでいたもので
息子は躊躇いなく
そこに死体を捨てた。


次の日
息子が何気なく
焼却炉を見ると
死体は消えていた。


数ヶ月後
近所の老婦に
声の小ささを
口煩く説教されたので
殺した。

その死体は
また焼却炉に捨てた。

次の日
やはり
死体は消えていた。


そして数年が経ち
母と己のもとに現れた
父を名乗る男が
馴れ馴れしく
家にあがったので
殺した。

母の目の前だったが
構いはしなかった。

例のごとく母は
息子を責めなかった。

息子は
母が己の邪魔を
するはずがない と
確信していた。


そしてまた時が経ち
息子がどんなに
人を殺しても
あの焼却炉に
捨てさえすれば
死体は消える…
それが
当たり前になっていた。

母は いつしか
痴呆症になっていった。

たまに
訳のわからない
発言をする母に
息子は腹を立て
母を
殺した。


そして
いつものごとく
死体を
ずるずると運び
焼却炉に放り込んだ。


次の日
焼却炉を見ると
母の死体は
そのままだった。

次の日も次の日も
死体は
そのままだった。

それから…
人を殺し
焼却炉に捨てても
死体は
消えなくなっていた。


蛆虫だらけの
焼却炉を見た
地元住民が不審に思い
息子の居ぬ間に
焼却炉を開けた
そこには
虫の湧いた死体の山…。



息子は逮捕された。


その後の捜査で
母の部屋の
向かいの庭を
掘ったところ

おびただしい量の
白骨化した死体と
血糊で汚れた服が
見つかったらしい。


息子は
最後の最後まで
気づけなかった…

母の歪んだ愛に。

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