夜羽部隊――。支配者である舞子が、直々に想像して作り出した、覇王の傘下にある特殊部隊である。隊員はすべて若い女性で構成されているが、所属しているのは感情があるのかわからないような、虚ろな目つきをした不気味な黒ずくめの女たちばかりだ。
彼女たちは命令されたことなら何でも忠実に、冷徹にこなす。覇王が治安部隊に任せたくないような、重要な裏の任務を遂行せねばならない時に、夜羽部隊を用いるのだ。それを今利用するということは、つまり……。
(光の子供を逃がしたことがバレてるってことか!?)
そして治安部隊の尻拭いのために、夜羽部隊が出動することになったと、そういうことだろうか。
ハントは動揺を隠そうと、下唇を噛み締めてルキを睨んだ。
「それは確かな情報だろうな?」
「ああ。監査員殿が自ら仰ったんだ。間違いねぇ。」
ルキはハッと一度大きく息を吐いて呼吸を正常に戻すと、眉間に深いシワを刻んでハントを見つめた。
「どうする?お前、あいつらにちょっと味方してやろうとか考えてたんじゃねーの?」
「……。いや、今動くのはやべえ。これで覇王様があっさり勝っちまったら、オレらの身が危ない。」
腕を組んで思案しながらハントが呟くと、ルキはチッと舌打ちして叫んだ。
「けど、夜羽部隊だぞ!?あいつらが呼ばれたってことは、覇王様が万が一にも光の子供を生かしておく気はねぇってことだ!」
「んなこたぁ、わかってる!だが仕方ねえだろうが。そもそも、夜羽部隊にやられる程度の連中なら、覇王様に勝とうなんざ百万年早えってことだ!」
ルキがぐっと詰まったのを気配で感じながら、しかしハントは相変わらず地面から目を上げられずにいた。
ハントとて悔しかった。ルキが焦る気持ちも理解できる。二人はわかりやすい反逆者の登場に心を踊らせ、希望の光を感じていた。覇王に反旗を翻す連中など滅多にいなかったし、例えいたとしても、覇王が鼻であしらう程度の弱い奴らでしかなかった。だが、今回は違う。指名手配という手段を使ってまで、覇王はなんとか光の子供たちを捕まえ、そして恐らくは消したがっている。これだけ覇王が躍起になっている相手なら、あるいは……と思ってしまうのも無理はなかった。
しかし、その希望の芽は、今にも摘まれようとしている。