そして治安部隊のリーダーであるハントは、保身のために「傍観」という立場を選択した。
「あいつらの強運を祈ろう。……オレたちにゃあ、それしかできねぇ。」
呟いた言葉は、濃さを増した夜闇の中にそっと溶けていった。
「まだこの時代が続くのか…!」すでにあきらめの混じった口調で唸るように吐き捨てたルキの目には、悔しさから来る涙がにじんでいた。
* * *
美香は沼の底に沈んでいくような、深く気だるい眠りの中にあった。
固いソファーに頬を押しつけ、窮屈に手足を縮めたまま、身体中の疲れを一気に取ろうとするように眠り続けていた。
最初は夢も見ないほどの深い眠りだったが、だんだんその寝顔は苦しそうなものへと変わっていく。徐々に悪夢に蝕まれていく意識をどうすることもできずに、美香は時折小さな呻き声を上げた。
夢の中で、王子とジーナが治安部隊に包囲されていた。二人共ぼろぼろに傷つき、立つことさえままならないような状態だ。ニヤニヤと意地悪く笑う大勢の若者たちが、全員で手を繋いで大きな輪を作った。治安部隊が回り出す。時計回りにぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐると。二人の姿が霞んでいく。存在が、消えていく。――嫌だ!!やめて!やめてよっ!!美香は泣きながら大声で叫ぶが、その声は透明になっていて、彼らには届かなかった。隣で耕太は眠っている。死んだように、眠っている。美香は絶望に駆られて立ち尽くした。そこへ舞子がやって来た。舞子はなんだかとても楽しそうだ。スキップしながら、歌を歌いながら、美香の目の前までやって来た。美香は思わず妹にすがろうと、震える手を舞子に向かって伸ばした。
ぱん。
舞子が美香の手を打ち払った。
「さわらないで。」
――――。
首筋に触れる冷たい感触に気づいて、美香は「ひっ!」と小さく声を上げ、ぱちりと目を開けた。
辺りは未だに深い闇に包まれている。美香は肩で大きく息をついた。夢……。震えながら泣きそうになっている自分に気づき、美香は慌てて両手で顔を覆った。
(ダメだ、きっと色んなことがあったから、頭が混乱してるんだわ……。)
美香は自分の思考に囚われるあまりに気づかなかった。さっきまで美香の首筋に冷たい刃を押しつけていた黒ずくめの女が、ひっそりと部屋の片隅に立っていることに……。