「青山の親父さんて野球うまかったんだな…。」
隼人は青山の心情を逆撫でしないよう慎重に言葉を選び、口を開く。
「あ、いや…まあな。今は社会人野球のコーチやってる。」
隼人がまた強い口調で突っ掛かってくると思いきや、穏やかにどこか淋しそうに返してきたので、青山は戸惑った。
「すごいな、社会人のコーチか。お、俺は…親父いないからうらやましいよ。」
隼人は言いづらそうに打ち明ける。
「…黒沢って親父さんいなかったのか。なんか…悪いな。俺の話で思い出させちまって。あっ、じゃあ野球の道具とか金かかって大変じゃねーか?」
「ま、大変だけど毎朝新聞配達のバイトやってるから大丈夫だ。」
隼人はうつむき加減で答える。
(そうか、それでいっつも黒沢は居眠りしてたんだな。)
「じゃあ今日は俺が奢る。今まで親のことすら正直憎んでた部分あったけど、お前の話聞くと結局何でも親から金出してもらってる自分がガキに思えてきた。」
隼人の事情を知った青山が、初めて優しい一面を見せる。
「マジか?サンキュー!」
沈みがちだった隼人の表情も一気に晴れる。
それから隼人は野球部の面々を青山に紹介する。青山はお返しにと、ここマンモスバーガーの裏メニュー、粗塩をふりかけただけのフランクフルトを注文。
「どうだ黒沢?うまいだろ?これお前にしか教えねーから。
マンモスバーガーと言えばマンモスチキンに行く連中が多いけどな、通はフランクフルトの塩のみ。」
「うん、ケチャップよりこっちの方がうめー。」
隼人は相槌を打つと、顔つきをやや真剣なものに変える。
「あっ野球部の練習来たくなかったら無理して来なくていいからな。まーウチは部員9人みんなレギュラーだからイジメはないし、青山がもし来てくれたら先輩たちも歓迎してくれると思う。」
「あ、ありがとな。お前みたいなの初めてだよ。
同じクラスの連中でも、クラスマッチで俺の実力見せてから冗談少し話すようになったぐらいだし。」
始めはぎこちなかったが、お互いの弱みを理解していくうちに打ち解け、固い友情が二人の間に育まれた。
二人はやがてかけがえのないチームメートとして、尾張ヶ丘野球部を引っ張っていくことになる。