『オヤジ‥‥俺、もう限界‥走れねぇよ‥‥‥。』
『ユウ!!弱音を吐くな!!
父さんの“握りっぺ攻撃”には強い破壊力がある。
家を出て来る時に食ったカレーの中に、ニンニクをうんと入れてもらったからな。』
アリイン中毒の俺にとって、ニンニクは大好物であった。
そのニンニクを食った後の屁の臭いは格別だ。
恐らく、俺の通常の屁の臭いよりも、数十倍はキツかっただろう。
『急げ!!ユウ!!』
もがき苦しんでいるリーダー格の男が立ち上がる前に、
早く、4階にたどり着かなければ。
『ユウ!!目の前はボーリング場だ!!
ボーリング場の中に逃げ込むぞ!!』
『うん!!』
そこは、まさに別世界に見えた。
目前に見えるボーリング場は、
まるで、砂漠を放浪中の旅人が、
やっと見つけたオアシス同様、
俺とユウには輝いて見えた。
30レーンあるうちの、わずか5レーンほどしか使用されていないのは、
今日が平日だという理由からか。
『待てや!!このヤロー!!』
リーダー格の男が、更に距離を縮め、俺とユウに近付き、
ボーリング場の中へ入って来ると、
後続の4人も、それに続く。
『バカめ!!
自分達からボーリング場の中へ逃げ込むとは!!
もはや、テメェらは袋のネズミ!!
俺様の手の内よ!!
ガハハハハッッ!!』
背後に響き渡る、リーダー格の男の声におびえている暇は無い。
体力を消耗しきった俺達にとっては、
なるべく人の集まる場所へ逃げ込む必要があったのだ。
『だ、誰か助けてくださいッッ!!
俺達、チンピラどもに絡まれているんです!!』
とりあえず最初に目があった若いカップルに、そう告げたのだが、
目を血走らせていた俺達の方が、
若いカップルにとっては怪しい人物に映ったのだろう。
『何だよいきなり!!
ちょっと、ここのスタッフの人いる!?
変なオッサンと兄ちゃんがゲームの邪魔するんですけど!!』
思わぬ客からの呼び声に、スタッフの一人が気が付いた。
『オヤジ!!ヤバいよ!!
スタッフのヤツ、俺らの方見てるって!!』