「若ちゃーん、楓くんはぁ?」
紗綾が口を尖らせてぶぅたれる。
「さあね、屋上にでもいるんじゃないかしら。」
若菜は膝に乗せた分厚いハードカバーのページを捲りながら紗綾には目もくれずに答えた。
「屋上?
あー屋上か。」
屋上の辺りに目をやり納得するように頷く紗綾。
「じゃ、行こっか、火葉くん♪」
紗綾は満面の笑みだった。
火葉は呆れたような顔で目の前の少女を見た。
ふんわりと優しい色をした短い栗毛を揺らしながら上機嫌で歩いている。
写真で見た彼女のイメージそのものだ。
「そういや、氷室さんは」
「紗綾でいーよ。
苗字で呼ばれるの慣れてないし。」
「…紗綾は、どうして学校休んでたんだ?」
あまり聞くべきではない気もしたが聞いてみた。
すると紗綾はけろりとした様子で答えたのだ。
「停学だよ。」
「停学?」
「そ。
若ちゃん悪く言った男子に飛び蹴りお見舞いしたら一発。」
テヘへ、と笑う紗綾。
悪びれる様子もない。
まるで当然のように話すのだ。
「…でも、君は異能力者だろ?」
「うん。でも、『IC』は来ないよ。」
「え?」
「だって、あたしのチカラはもっと別のものだもん。
飛び蹴りはあたし自身のチカラ。」
紗綾は笑顔だった。
そう、資料室で見たあの写真と同じ無邪気なそれだった。