「今日は、悪かったな。でも、お前の部署も行ったけど、お前何してたんだ?
一向に出てこなかったけど」
「俺のところは、おみやげ売場だろ。 売場はアルバイトに任せて、裏で事務処理してたんだよ」
「お前が?なんか想像つかないなあ」
「なんだよそりゃ。こう見えてもやるときゃやるんだよ。
お前みたいに、仕事とプライベートが、中途半端じゃないんだよ」
「失礼だな〜」
この会話は、義人と哲彦が、ずっとしてきた、いつもの会話である。
「で、どんなデートだったんだよ。落ち着いた感じか?年齢的に(笑)」
「まあ、そうだな。彼女自身も割合ハシャぐタイプじゃないし」
「へぇ…で?」
「まあ、その後は普通に食事だよ。ホテルまで送っていったよ。シンプルだろ?いたって」
「へぇ…。なんかシンプルすぎて、つまんないけどな」
「あのなあ、お前みたいに、下心全開じゃないんだよ。…それにな…」
「それに?なんだよ。」
「彼女、自分の本名と年齢と、昼間の仕事も、教えてくれたよ。『そういう形でも付き合って欲しい』とね。」
「うらやましいなあ。おい。で、返事したのかよ」
「まあ、友達としてな。そんな答え方したら、少し不満そうな表情はしてたけどな」
「そりゃあもう、相手が恋愛の対象として、捕らえてるんじゃないかよ。どうするんだよ」
義人の言い方は、決着つけた方がいいんじゃないかとゆう意味だが、哲彦は迷っていた。
哲彦には、トラウマがあるからだ。
かつて仕事先の女性と意気投合し、彼女からの申し出で交際もしていたが、さあ、これからとゆう時に、彼女が人妻であることがわかったからだ。
亭主がいるのに、その奔放さもショックだったが、彼女と別れた後に、出会い思い入れも強がっただけに、考え方も変わってしまっていた
そのことは、義人も知っていたが、今まで触れてはこなかった。
「お前、まさか、あのことで、慎重になってるのか?」
「まあな…」
「うらやましいな。お前と違って、俺はもてないし、そんなこともないからなあ。常に『優しい人ですね』って言われるけどさ、それ以上がないんだよな。俺は」
「そのうち、いいことあるって。」
「いつだよ」
この2人の、不毛な会話は、その後2時間続いた。