『どうしたの?』
席を立った僕に駆け寄り君は不安な表情を浮かべた
『幸せになれよ』
不愉快にさせるその捨て台詞
相変わらず格好悪い
君は今幸せに過ごしている
奪えるはずもない
君の世界も君の事も
『幸せになるよ』
寂しそうに笑う君がまた僕を寂しくさせた
今何を伝えるべきか
もしも僕の気持ちを伝えてしまえばただ君を困らせる
だから言わない
言わずにいる事が二人の為だと分かっているから
『帰るの?』
逃げているとは分かっている
それが情けない事だとも
でもどうしても辛くて
久しぶりに会えたのに
会いたいと思い続けて来たのに
今は何も受け入れられそうもない
君の幸せを願う事が君にしてあげられるたった一つの事だろうけど
そんなに寛大な人間でもない
だからごめん
『顔出しただけだから』
強がりだった
『そうか、分かった』
君は頷いた
君から離れた
歩くしかなかった
君の世界から遠くへ
『ねぇ』
突然君が呼ぶから足を止めた
振り返りたくはなかったのに
『ホントはあなたと幸せになりたかった』
君は気付いたんだね
遅すぎる僕の想いに
君の不意打ちに言葉を失い君を見詰める事しか出来なかった
そしてそれと同時に君は分かっていた
僕が何も言わない事も
これが本当の最後だという事も
『なんて冗談よ』
そう言ってあの頃の笑顔を見せた
先に背を向けたのは君だった
君の切ない程のその告白
君もずっと苦しんだ
どうしようもない僕を想い
懸命に前へ進もうと
誰よりも僕を理解してくれている君は
僕の想いを代弁してくれた
相変わらず優しかった
だからその君の台詞が痛く突き刺さって上手く歩けなくなった