大澤は浮かぬ顔のまま、八雲達と校門を出ようとしていた。
彼には少なからずの失望感があった。
チームワークを第一に考える大澤に、先程の哲哉達の態度は受け入れられぬものであり、それが二人への不信感に変わり始めていた。
「……教科書を忘れた」
足をとめた大澤が、唐突につぶやいた。
「大事な教科書を置き忘れるとは、いったい何しに学校きてんだ?」
「何だとっ!」
茶々をいれる八雲に、大澤はむっとして拳を振り回した。
「よっ!」
ステップを踏んで難無くかわす八雲。
それを忌ま忌ましく思う大澤は、小さく舌をならして哲哉を見た。
「取りに戻るが、待たなくていいぞ」
「では、また明日」
「ああ」
短くこたえた大澤は、小走りで去っていった。
その背中を見つめる八雲は、笑みをうかべた。
「……あの人、演技が下手だな」
「そうだな」
グランドに直行した大澤は、その途上で金属バットの甲高い音色を耳にした。
それを訝しく思う彼の走りは、自然と早くなっていった。
そしてたどり着いた先で目にしたのは、練習を続ける三年生達の姿だった。
「……あれ、どうしたんだ大澤、何か忘れ物でもしたのか?」
大澤に気付いた水谷が声をかけた。
「なぜ先輩達だけで居残り練習を?」
「俺達にできることといったら、守備で足を引っ張らないようにするぐらだからな」
「ならば結城達を呼んできます。みんなで一緒にやりましょう」
八雲達を呼びにいこうとした大澤を、織田が呼び止めた。
「いや、いいんだ。八雲は帰ってから、また走り込みをやってるし、結城は寝る間を惜しんでチームのプランを考えてくれている。
あいつらはあいつらで、自分のやるべき事をちゃんとやってるんだよ」
大澤は不可解だった哲哉と八雲の行動が、理解できた気がした。
ナイター設備のないこのグランドで、三年生だけで練習できる時間は限られている。
それを知っていて、二人はそそくさと帰っていったのではないかと。
だが大澤は、三年生達がなぜここまで入れ込むのかがわからなかった。
彼等は全員が来年受験であり、受ける大学はどれも簡単に入れるところではない筈である。
「なぜそこまで、あいつらのためにしてやるのですか?」