織田が窓の向こうの景色に目を向けながら、感慨深げに呟くと、秋吉は決断を迫る。
「確かに、本校野球部の生徒にはうつけ者が多くいます。しかし、黒沢や仁藤は好きな野球の試合をするために嫌いな勉強をやってのけたのです。今度は我々が応える番ではないかと。監督就任への許可を何とぞ…」
「あい分かった。監督就任を許可しよう。」
織田は直ぐさま決断を下す。
「校長!昨年あの野球部の仁藤剛介が起こした暴力事件で我々は各方面への対応に追われたではないですか!!」
低く濁った声で、二人の会話に割って入ったのは教頭を務める斎藤一政だ。禿げ上がった頭からは脂汗が吹き出ている。
「黙っておれ。」
窓側を向いていた織田は後ろを振り返り、持っていた扇子を斎藤に投げ付ける。
扇子は見事、斎藤の脳天を直撃。
「秋吉先生が尾張ヶ丘のうつけ者たちをどう変えていくか見たくなりました。
…して現在の高校球界において全国レベルの高校はどこかな?」
頭を押さえながら斎藤がのたうちまわるのを尻目に織田は秋吉に尋ねる。
「私見で申しますと…
山梨の甲州風林学園、
それに、静岡の駿河清陵あたりが強豪かと。」
「ほぉそれらを倒さねば天下は取れぬ、と。
では、早速明日から指導に当たってもらいましょう。高野連への登録の方はこちらで済ませておきます。」
「ありがとうございます。」
深々と頭を下げた秋吉は校長室を出る。
「校長よろしいのですか!野球部など焼き討ちじゃー!とおっしゃっていたではないですか!」
激痛が収まった斎藤が、織田を問い詰める。
「なーに、あの秋吉という男も野球部に何か問題があれば、前監督と同じように飛ばされる運命よ。」
織田は不敵に微笑む表情の奥に冷徹さを漂わせる。
(全く…校長の考えとることは読めん。)
斎藤は呆れた顔で困惑する。
意気揚がる織田は永楽銭を模したかのような校章の入った校旗をバックに立つと、
「目指す都は…」
勢いよく軍配をかざす。
「甲子園っ!!」
一方、校長室を出た秋吉もこれから始まる戦いへの高揚感に、武者震いがしていた。
「まずは全国よりも愛知を戦い抜かねば!!」
かくして秋吉の尾張ヶ丘野球部監督就任が決まった。