秋吉の指導が始まってから一週間が経ち、野手の動きも徐々に良くなってきた。
練習試合を明後日に控え、併殺、挟殺、中継など連係プレーの確認に時間を割く。
「ナイセカン!ナイセカン!いーねいいねー。」
「オッケオッケオッケー!ナイッスロ、ナイッスロ!」
「みっつみっつみっつー!
カットもうちょい右!」
変わってブルペン。
先月のうちに肩のスタミナを作っていたため、これまで遠投やキャッチボールで調整していた隼人は、6月に入って初めての本格的な投球練習。
隼人の投球を初めて目の当たりにした秋吉は内心驚いた。
今まで指導してきた投手の中で最も球速があった日ノ瀬亮介の三年時と、なんら遜色ないボールを一年の隼人が放っていたからだ。
(故障さえしなければ、三年の夏には150?に到達するやもしれん…)
しかし秋吉は隼人を褒めようとはしない。
「コラコラ肘が下がってるぞ。」
秋吉は、尾張ヶ丘ナインすべての性格はまだ理解していないが、隼人の性格はある程度理解している。
(黒沢は負けず嫌いだ。褒めるよりは厳しく当たった方が伸びる。)
秋吉は腕組みしながら、
隼人に鋭い視線を向け、今後どのように指導していくべきか、大まかな構想を膨らます。
(まだまだ上体の開きが早いし、変化球もたいしたことない。ただ色々とあれこれ注文をつけるよりも、壁にぶつかる度に一つ一つ課題を克服していく方が合ってるだろう。
ウサギとカメで言うなら黒沢はカメだな。)
この日は練習後、秋吉が試合当日の集合方法についてナインに話し、解散となった。
そして、試合前日。
隼人は昼休みに青山に試合当日の集合方法を伝える。
「明日は監督の車で行くなら、朝8時に校門前に集合。直接トヨチュウに集まるんなら9時に集合だからな。絶対来いよ!」
「わかった!!どでかい当たり打ってやるから、俺のバッティング見てろよ!」
青山はいよいよその時が来たかと、気合いの入った目つきで力強く宣言した。