「ハアッ…ッ和樹!」
やば…
結構な距離を全速力で
走って、せっかく和樹が
呼んでくれたのに
息切れなんて話せないじゃん…。
「あ、愛美」
和樹は振り向くと
悲しそうな顔をしていた。
「ごめん…ッ…ハアッ」
そんなあたしの状態を見て
和樹は笑って
「どっから走ってきたの?」
って言う。
久しぶりに和樹が笑った顔を見た――。
そのあと、和樹はあたしが落ち着くまで待っていてくれた。
「…」
沈黙が二人を襲った。
少しして和樹が口を開いた。
「…前も言ったけど、別れよう…?」
やっぱりそれなんだね…。
「理由は…?」
「え?」
「理由。和樹があたしと別れたい理由…あたし何かした?」
あたしが聞くと和樹は
少し俯いてから言った。
「夢…」
「え?」
今度はあたしが聞き返す。
「俺さ、夢があるの。高校ん時も頑張ってきたつもりだったけど"お前じゃ無理"って言われて…」
和樹は悲しそうな顔で
話し始めた。
あたしはそんな和樹を
見て悲しくなった。
「俺、絶対叶えたいんだ…その夢。これからもっともっと勉強しなきゃいけなくて、愛美と会える時間が本当に少なくなるんだよ…」
「…」
あたしは何も言わずに聞く。
「俺だって別れたくない。…でもそんな中でズルズル付き合っていても、俺たちダメになる気がする…」
ずるいよ…
「だから…」
和樹は、ずるい…
「別れよう…」
そんな理由…あたし
"嫌だ"って言えないじゃん。
『他に好きな人ができた』
とか、
『もう好きじゃない』
って言われていたら、
あたしは泣いて、
しがみついて、
放さないつもりだったのに…。
―そんな理由じゃあたしに選択権はないんだよ―…。
心の中であたしは自分に言った。
「そっか…それじゃ仕方ないよね!和樹はあたしの事も考えてくれてたんだね!…ごめんね?この前はわがまま言って…」
「愛美…」
泣かない…。
あたしの涙腺は大量の涙を出したがっているけど、あたしはそれを無理矢理引っ込める。
「うん…分かった…」
あたし達は…、
「別れる…」
終わった…。