こんな寒い朝は私が生まれた朝を思い出す。
思い出すと言っても自分が生まれた日の記憶が鮮明に残っている訳ではない。幼い頃に親から聞かされた風景が頭のなかで妙なリアリティを持ってこびりついてるのだ。
変な子だと言われて育った。私は犬を飼っていた。茶色と白の毛色をした雑種。パパが同僚から貰ってきた犬だ。
『大切に世話するんだよ』パパは私の頭を工場勤めのせいかやたらごつごつした手でかき回した。
私はなんと返事をしただろうか。
「うん」や「はい」ではなかったし、かといって否定的な言葉を発してもいない。
思い出せない。
そう!それも寒い日だった。木枯らしの吹くなかミイ(犬のクセに猫みたいな声だからママがそう名付けた)と私は高架下の川原を季節不相応な薄着で散歩をしていた。
「寒い・・・。帰ったら思いっきり暖まろうね。」
それにミイはくぅと小さく返事をした。