放課後、隼人が意気揚々と部室に向かっていると、いきなり大雨が降り出した。カバンを傘代わりに隼人は部室に駆け込む。
「うっそー雨かよ。」
折しもこの日、梅雨入りが発表された東海地方。隼人たちは体育館での調整を余儀なくされる。
ランニング、ストレッチなど通常のウォーミングアップの後、予定していたフリー打撃の代わりに苦肉の策として柔らかい庭球を使ったティー打撃を始める。
「あーあフリー楽しみにしてたのによ〜。」
「俺らってそんな日頃の行い悪いのかぁ?」
悪天候に愚痴をこぼしながらも、尾張ヶ丘ナインは黙々と打ち込む。
そんな中、一番の当たりを飛ばしたのは主将を務める仁藤。
ヘッドスピードの速さはナインの中でずば抜けている。
これに負けじと、隼人も中々パンチ力のある打撃を披露。
これらを踏まえ、秋吉は打順を決定。
オーダーは以下の通り。
三 松平慶太
二 渡辺佑也
投 黒沢隼人
捕 仁藤剛介
中 漆沢伸兵
左 三宅 了
一 内藤隆大
遊 細井 渉
右 青山哲也
秋吉の方針で試合前日は疲れを残さないようにと、軽めの練習で切り上げる。
試合当日。心配された天気は曇り。
校門前に集合したナインは秋吉の十年落ちオンボロミニバンに乗り込む。
「うわっ磯くっせー!」
「監督、釣り具のニオイが…」
「つべこべ言うな!
何なら走っていくか?」
秋吉は三年生部員の不満を強引に黙らせ、出発。
秋吉の車が満員のため、隼人は古文の授業を担当する石井筆子の車で送ってもらうことになった。
隼人たちが出発してから、30分後…
「やっべぇ寝坊したー、もう間に合わねーか…」
学校前の上り坂を青山が息を切らしながら駆け上がってくる。
夜遅くまで素振りをしていた青山はうっかり遅刻してしまったのだ。
隼人たちも直接試合のある場所に集合するものだろうと、青山を待たずに出発してしまったのだ。
すると青山の後ろから、一台のイタリア製高級車が迫ってきた。
車は青山を追い越すと、なぜか左脇ではなく右脇に寄せて止まる。
左側のウィンドウが開くと、男が顔を出し、青山に向けてこう言った。
「お主、もしや野球部の生徒ではないか?」