「彼女?」
義人の質問に、哲彦は聞き返した。
「彼女って?」
「お前の会社の子だよ」
「会社の子?ああ…、たまに食事に行ってるよ。極めて普通にな」
「本当かよ…。そこら辺は、納得してねーけど、ほどほどにしとけよな」
「ほどほど?おいおい、俺はみさかいなくないぞ」
「あのな〜、じゅうぶん、みさかいないよ。…けど、その子は、そんな形で満足してるのかよ?お前に告白したんだろ?…なんか、年相応じゃねぇよ」
「そりゃ、付き合い方が、おとなしいってことか?」
「そういうことだよ」
「それが、俺の優しさかな」
哲彦の変にクールな言い訳に、少し不満を覚えながらも、もう一つ質問をした
「あのさあ…」
「ん?」
義人は、少しの沈黙のあと、聞いた。
「俺も、人のこと言えねーけど、お前の本心は、どこにあるんだ?実際のところは」
「本心?」
「旅行に行くきっかけを作ったのは俺だし、つながりを広げる目的だったかもしれないけどさ、今の時点で、誰に比重を置いているのか解らないからさ…」
「うーん…そういえば…」
義人の質問に、すぐに答えられない哲彦は、確かにそうだと思った。
過去にかかえたトラウマがあるとはいえ、麻由や、『かすみ』に出会ったことで、少しずつトラウマは改善していた。 そんななかで、少し解った。
『かすみ』の存在である。
麻由や、下原あや子は、自分を好意的に見てくれていることは、ありがたく思っていた。
だが『かすみ』は、一歩引いて、冷静にメールをくれている。
きっと、その対応が、哲彦には、興味を引かれるものがあったのだ。
(きっと…彼女かな?)
そう思いながらも、哲彦は「まだわからないよ。俺なりにまだ考えてみるさ」と答えた。
またしても、消化不良な会話で、2人は電話を切った。
…そのころ、『かすみ』は、あることを思っていた。
「あの人、どうしているんだろう…話してないのに…なんで気になってるんだろう」と。