「いない!?」
秋一は自分でも驚くような声で聞き返した。
「どういうことだ…」
「だから、それはこっちが聞きたいんですよ。」
ボーイもいい加減うんざりしたように答えた。
「蒼はこんな風に無断で休むようなやつじゃないんです。こっちとしても寝耳に水ですよ。」
「何か心当たりはないのか?借金とか、女とか…。」
「借金なんて話聞いたこともないですよ。女…まさか。」
ボーイはしばらく考えこむような素振りをみせたが、
「一週間くらい前に…女が来たんです。それも飛びきりの上玉。」
「何だよ。お前らの所じゃよくあるこったろ?」
「いや、それが…。」
ボーイの話はよくわからない物だった。
その女は入って来ると同時に蒼にピアノ演奏を要求し、一通り聞くと今度は旅行に誘ったらしい。
そして、蒼はその3日後に行方不明になった。
「なるほど…」
秋一は状況を計算した。おそらく蒼はその女と共にいるだろう。他の情報だとここの従業員は誰も蒼がピアニストだったと知らなかったようだ。
それに自分でさえここを突き止めるのに一週間かかったのだ。その女が一般人とは考えにくい。
「そうか、わかった。」
そう言うと秋一は立ち上がって逃げるように店を出た。
「あ、情報料。」
と、ボーイが言うのも聞かずに。