中川は、ゆっくりと繭子の肩を両手で押し、ベットに倒した―\r
そして、時間を掛けて、何度も何度もキスをした。
「ねぇ・・・?秀樹?」
吐息混じりの声で、繭子が中川を呼んだ。
「ん・・・?どうした?」
「早く・・・。私に触れて。」
「焦らないで・・・。ゆっくり時間を掛けてしようよ。折角、久し振りに、こうなれたんだしさ。」
「眠いの、何故か、突然に。それにいつも、早く私の中に入れたいって言うじゃん。じらさないでよ・・・。」
「別に、じらしてる訳じゃ無いよ・・・。もっと、ゆっくり繭子を上から見て居たいだけだよ・・・。」
中川は、とっさに嘘を付いた。睡眠薬を混入させたシャンパンを、先程、繭子は一気に飲み干した。あと、少しすれば、眠ってしまう―\r
繭子が眠ってしまえば、繭子を抱く事をしなくても、良い・・・。
中川は、その事しか考えて居なかった。繭子に、悟られ無い様に、嘘を付いたのだった―\r
「こんなの、秀樹らしく無くて、い・・・や・・・。早く、私の中に来て・・・よ・・・。」
繭子の声は、段々と聞きとり難い位、小さい声になって行った。
中川は、繭子の口を塞ぐ様にキスを続けた。
濃厚なキス―\r
「繭子・・・?繭子・・・?」
数分後、繭子の安らかな寝息が、中川の耳に届いた。
名前を呼んでも、軽く肩を揺すってみても、繭子からの返答は、一切無かった―\r
中川は、溜め息を一つ付き、繭子の身体から、素早く離れた―\r
「面倒臭せぇ奴だな、ほんと・・・。こんな事になるなら、外人の売人から買えば良かった・・・。」
小声で、そう漏らし、ベットの上の繭子に、布団を掛け、シャワールームに立った。
その頃、病院に茉莉子がやって来た―\r
「茉莉子・・・。」
私の顔を見るなり、茉莉子は、急に走り出し、悲愴な顔で、私の肩を抱いた。
「淳・・・、淳は、どこ?」
私は、直ぐ前に有る集中治療室の扉に向かって、無言で指を指した。
「まだ、何も変わり無いの?」
「うん、何も・・・。」
「そう・・・。」
茉莉子は、私の周りのベンチに腰掛けて居た、淳の彼女の七星や、店の従業員の顔をまじまじと見た―\r
茉莉子が、淳の容態に何か変化が無いかと必死に聞きたいのだと空気を読んだ七星は、下を向いたまま、一言呟いた。
「何も変わり有りませんよ、私達、もう何時間も此処で待っていますから・・・。」
その声は、沈んでいて、私が聞いた事の無い様な七星の声だった―