思い立ったが吉日とはいうけれども、今回は勝手が違っていたようだ。
「すいません。飛行機取れませんでした…。」
春香は本当に申し訳なさそうに頭を下げた。
「仕方ないか…。」
今回の飛行機代のために、秋一は残りの預金を全て注ぎ込んでいた。
もう帰る家はない。
「私たち、空港暮らしになるんでしょうか…。」
春香が心配そうに呟いた。
「お前は家も仕事もあるだろ。ここから先は俺一人で十分だ。もう帰ってろ。」
秋一はそう言うと、空港受付に向かっていった。
「…です。」
「あ?」
「嫌です!」
凛とした声が空港ロビーに響き渡った。
「嫌ってお前…。」
秋一は茫然と立ち尽くしていた。
「先輩の記事、ずっと憧れてました…。」
「憧れてたって、あれはほとんど俺の捏造で…。」
「捏造でも、文章は素晴らしくて信憑性が本当にあるようで、まるで文字が生きているみたいでした。私もこんな記事が書きたいと思ってたんです。」
「…。」
「今回のこと、本当なんですよね。本当だからそんな一生懸命なんですよね。」
秋一は何も言えなかった。本当なのは確かだ。だが、誰が信じてくれるのだろうか。
「先輩は、悲しくないんですか。誰にも信じてもらえなくて。悔しくないんですか!?」
その声には涙がこもっていた。
「福島…。」
秋一は思わず戻ってきていた。
「素晴らしい情熱だ。うちの社員にも見習わせてあげたいよ。」
秋一が声のする方向を振り向くと、一人の男が付き人を連れて歩いてくるのが目に入った。
「君達が妖精のことを見つけたい気持ちはよく分かる。」
「ど、どうしてそれを…。」
秋一は身構えた。妖精は春香にしか話していないし、口止めもしている。
春香も、自分は喋ってないと目で訴えていた。
「なぁに。木村 蒼から辿ればそんなのは一瞬で理解できる。」
男は軽く鼻で笑うと、
「その夢、僕が叶えてあげよう。」
と、笑顔で告げた。
「あんた…まさか。」
男が近付くに連れ、秋一も彼の正体を理解した。
「そう、流石だね小早川君。」
そして彼『も』一拍置くと、
「僕が黄月家長男、黄月 薫(カヲル)だ。」