夢というものは、なんて不思議で奇妙な世界なんだろう…。
ここはかつて私が住んでいたアパートだ。
もう越して三年にもなるのに夢に出てくるのは決まってこのボロアパート。
キッチンというにはおこがましい程のスペースに申し訳ない風情で並ぶ調味料たち。
洗われていないフライパンの上に乗せられた、これまた薄汚れた食器類。
だらしのない生活もそのままに、このアパートは私を迎える。
夢。
こんなにクリアでリアルにも関わらず私はすぐにこれが夢だと気づく。
無造作に掛けられた鏡に映る私の顔は泥のようなもので汚れていて、血走った目は平凡、穏やか、と形容されがちな私の容姿を一変させている。
そして、私はふと両手に重さを感じる。
懐かしいあの重さとぬくもり…生涯忘れることのない感触。
私の両手がしっかりと掴んでいるのは人間の脚。
私が夢中になって愛した女の脚。
まだ暖かさの残る柔らかな脚…その足首から先…ふくらはぎ、太ももと続き、その先はない脚を私は抱えているのだ。
私は繰り返している。
夢のなかで繰り返し、繰り返し…。