手渡された資料を紗綾はただじっと見ていた。
「さゃ…」
「黙って火葉くん。」
紗綾に声をかけようとしたがそれを見越していたかのように若菜が制した。
どれくらいの間、そうしていただろう。
決して長い時間ではないだろうが火葉が感じるこの静寂は、彼にとって恐ろしく長いもののように感じられた。
「…思い出した。」
紗綾が呟く。
「それで?」
「この写真は有隣町で撮られたもの。
こっちは吾妻。
行動範囲は広そうだね。
それと、この子が昨日駅前の本屋にいるのを見た。」
「ありがとう、紗綾。」
「えへへ〜
若ちゃんの為だもん☆」
ニコニコと笑う紗綾はどこか無理をしているような疲れた顔をしていた。
「…じゃ、おやすみぃ〜…」
バタン、とソファーに倒れた紗綾。
直ぐに穏やかな寝息が聞こえ少しホッとしながら若菜に尋ねた。
「紗綾の異能って…」
「『記憶』よ。」
「『記憶』?」
「そうよ。
一度見たものを『記憶』し、必要なら引っ張り出したり相手の記憶の消去も出来るわ。」
「へぇ」
「それ故に辛いことも、沢山あったけれどね。」
「…凄いな、紗綾。
それであんな元気でいられるんだもん、すげぇよ。
たとえ空元気でも。
凄いことだよ。」
火葉の言葉に目を丸くした若菜だったがすぐに優しげな笑みを浮かべて火葉に問うてきた。
「もしも明日が、………。
やっぱり何でもないわ。
変なこと言ってごめんなさい。」
じゃ、鍵よろしく。
と言って若菜は逃げるように資料室を出ていった。