「( こんな簡単な事なのに…)なんで…。」
花音は、拳を握りながら思わず声を出してしまった。
菜々が汗を拭きながら、花音に笑顔で話しかけた。
「いいんだよ。慣れてるし、私もみんなに頼まなかったから。」菜々は、続けた。
「時間がかかるけど、自分で出来る事は、自分でやらないとね。いつも、誰かに助けてもらってばかりじゃね!」
花音は、菜々のたくましさに言葉が出なかった。
自分が菜々に断りもなく、手伝ってしまった事を反省した。
そして…普通に…の意味の重さをほんの少し感じた。
「花音!待った。かぁ」海斗が走って花音のもとに駆け寄った。
「あっ、うん。そんなんでもない」花音は、ベンチから立った。
「あっ俺、夜、予備校だからさぁ。あんまし時間なくて…。」
「わかってる。」そういうと、花音は、歩き出した。
花音は、買い物していてもお茶を飲んでいても、海斗といるのに…と、自分で問いただせるが…楽しめなかった。
「ねぇ、花音?聞いてる?」「えっ。あっ、うっうん…。」花音は、ハッとして返事をした。
「だからさ、そろそろ、センター試験も近いし、そう逢えないと思うんだ。しばらく、試験に集中するよ。あっ、でも、電話は、大丈夫だからさっ」
海斗が苦笑いしながら言った。
「いいよ。別に…。無理しなくても。…今、やらなきゃいけない事に力入れた方がいいよ。」
花音は、続けた。
「…だから…しばらく、連絡いらないから。私にも都合あるし、期末試験もあるから。受験…頑張って」
「あっ、あー。頑張るよ…。」
海斗は、花音がそんなふうに自分の意見を聞いたのが初めてで驚いていた。
「じゃあ。」
「じゃあね」いつものように海斗と別れた。
花音は、このまま終わりが来る事を確信した。
悲しくはなかった。
「桐生さん?」後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「結城さん。こんな遅くにどうしたの?」
花音の言葉に笑いながら「桐生さんこそ、こんなに遅くに」
「あっ、そうだね。彼氏と一緒にご飯食べてたんだ。」
「桐生さんの彼氏見たかったなぁー。」
そんな菜々の側に菜々と似合わないというか、他人と思えたその人を菜々は、紹介し始めた。
「自立支援ボランティアの五十嵐 椋(りょう)さん!」
「どうも!五十嵐です。よろしくね。」
花音は、ずいぶん軽い感じのヤツだなぁと思った。