イルザリアン修道院。
ゴンドワ大陸の最東端に、古代より聖なる山とされるアトモス山がある。
その頂きにイルザリアン修道院があり、眼下には最大の首都カッシートが広がる。
イルザリアン修道院は聖シモンにより創設された。
伝承によると、山の洞窟で修行をしていたシモンがある日、天空より現れた竜“エムル”から聖杯を授かり、この地に修道院を作るよう説示し、そしてエムルは修道院とこの国の平和を約束して西の空へ飛び去った、という。
その後、シモンが授かった聖杯で水を飲むと、人知を越える力を手に入れた。
シモンはエムルの指示に従い、山の頂きにイルザリアン修道院を創設し、以来人々に教えを広めるのであった。
現在、修道士は800人を越え、さらにイルザリアン高等魔術訓練学校の生徒を加えると1200人近くにもなる。
敷地はとても広大で、修道院主要部の他にもそれぞれ違う場所に、大理石製で飾られた礼拝堂や、修道士達が果物や野菜などを栽培する果樹園、ユーリッド共和国成立後すべての歴史が保管されている図書館
そしてその中の一つに、イルザリアン高等魔術訓練学校がある。
学校は7階建てで、部屋数は300室あり、最上階に校長室がある。
そして今まさに、この校長室の中で、創設以来の大事件が起ころうとしていた。
それは学校中に響き渡るほどの怒号で、校長室の中から聞こえた。
「サヤ・ルソーが拉致された?なぜだ」
学園長ノーザンランドは、もの凄い剣幕で修道士に迫っていた。自慢の白い口髭が震えている。
「ダークフォレストにいたところを、サンケ族にさらわれたと、ニナーヴァの警備兵から報告が入ってます」
「サンケ族?そんなバカな、ありえない…一体なにがあったと?」
修道士の後ろで、リュートとオヨが青い顔で立っていた。