Aは病室に見舞いに来ていた。
そして、ベッドに横たわっている少年に向かって、こう言った。
「おい少年。早く良くなるんだぞ。おじさんも、今日の試合は頑張るからな」
Aがそう言うと、少年は嬉しそうに微笑みながら、こう言った。
「ありがとう。ボク、頑張って治すから。だから、おじさんも頑張ってホームラン打ってね!」
「あぁ。今夜必ずホームラン打つからな。少年もしっかり見てろよ」
Aはそう言って病院を後にした。
しかし、今年で40才のAはレギュラーが確約されている訳でも無く、試合にさえ出られる保証も無い。
かつてのホームランキングは、ここ数年たび重なるケガと闘いながら、プライドだけを心の支えに頑張っていたのだった。
――Aは迷った。
先発出場を直訴しようかと。
しかし、そんなAの気持ちを監督は知ってか知らずか、今季初めてAをスタメンに起用した。
堂々の4番での出場だ。
Aは気合いが入っていた。
古傷の痛みも無く、久し振りにコンディションも良い。
ついに試合が始まった。
相手投手は首位チームのエース。味方の選手に対し、バッタバッタと三振を奪っていた。
そして、Aのところに打順が回って来た。