Aは打席に入るなり、バックスクリーン方向に向かってバットを高々と掲げ、予告ホームランの合図をした。
盛り上がるスタジアム。
熱くなる相手投手。
ピッチャーは間髪与えずに、Aに対して剛球を投げ込んだ。
――ストライク。
Aは手も足も出ない。
立て続けに2ストライクに追い込まれ、相手投手が3球目を投げ込むと、Aのバットが空を切った。
結果は三球三振。
その後も相手投手の球は唸りを上げ、快投が続いた。
ついに最終回になった。
ここまで相手投手からは無得点に抑えられ、敗色濃厚だった。
A自身も3打席3三振に抑え込まれていた。
相変わらずAは予告ホームランの合図を続けている。
もはやこの光景は、球場中の失笑を買っていた。
完投目前の相手投手は、微かに笑みを浮かべた後、矢のような球をAに対して投げ込む。
その球は、Aの顔面に目掛けて真っ直ぐ進み、避けたAのヘルメットに直撃した。
その場に倒れ込むA。
しんと静まり返るスタジアム。
両チーム各選手、アンパイアがAの元に心配そうに集まる。
急いで担架の準備が始まった。
そして担架がホームプレートに運び込まれた時、どこからか声が聞こえた。