うずくまる美香と耕太を包囲する形で、女たちは次々と地面の上に降り立った。赤く冷たい、何の光も宿さない幾対もの瞳が、じっと静かに二人の姿を捉えている。
二十人ほどの女たちは一斉に、まったく同じ動きで長剣を身体の前に構えた。磨きあげられた美しい細身の刀身が、絶望的な表情を刻んだ美香と耕太の顔を映し込んだ。
(ヤバい…!ヤバいヤバいヤバい!どうする!どうすればいい!?)
耕太はごくんと生唾を呑み込んだ。情けないことに手がぶるぶると震えてくる。耕太はすでに力を使い果たしていた。気絶こそしてはいないが、さっきから想像していることが、ちっとも形になってくれないのだ。
こうなったら残っている剣で戦うしかない。しかしこれでさえ元はただの木の棒だ。一体どれだけの間剣の形を保ち続けられるかわからないが、やってみるしかなかった。
耕太は痛みを訴える右手首を黙らせ、再び地面の上に転がる長剣の柄をつかんだ。
その手を、美香が押し留めた。
驚く耕太をよそに、美香はゆっくりと立ち上がった。一歩、二歩と前へ出る。女たちは警戒している様子で、誰一人身じろぎせず、美香の動きを見守っている。
沈黙を裂くように、美香はきつい声音で言い放った。
「私を殺して。」
耕太は頭が真っ白になった。
美香の後頭部しか見えない耕太には、美香がどんな表情でそれを言っているのかわからなかった。
美香は震えるように夜気を吸い込むと、闇に佇む女たちに向けてとうとうと述べた。
「それがあなたたちの目的で、覇王の狙いなんでしょう?だったら私を殺しなさい。この人は関係ないわ。例え舞子の――支配者の元へ辿り着いたって、この人は何もできない。支配者を脅かすことはないわ。」
美香は目を細めて、周りの女たちの顔を順繰りにうかがった。
「私の言っている意味がわかる?」
女たちは答えない。ただ、わずかに顔を仲間の方へ向けて頷く者、長剣をより使いやすいように構え直す者とがいる程度だった。
しばし茫然としていた耕太は、はっと目が覚めたような顔をすると、ぎっと歯を食い縛った。剣を強く握り締めて美香に駆け寄り、細い肩をつかんで振り向かせる。
「馬鹿なこと言うな!そんなのさせるわけねぇだろ!」
「……耕太には関係ないわ。黙ってて。」
ちらりと耕太を見たその瞳は、“真セカイ”にいた頃の美香の瞳そのものだった。