1話『雨の日』
俺の名前は『霧崎 遊』(きりさき ゆう)。
何か1つでも人に胸張って言える特技がほしくて『料理』を3ヶ月前から始めた。
得意料理はサバの味噌煮だ。
性格はどこにでもいる出しゃばりな高校生だ。
高3の夏、大学に行く予定もないので周りの空気を読んで夏休みは暇を持て余している。
恥ずかしい話で18年で初めて家族旅行に行くことになった。
温泉が有名なところらしく、親は嬉しそうだ。
あまり乗り気じゃなかったが家族全員での旅行は悪い気がしなかった。
車で1時間半。ずっと寝てたのである意味快適だった。
旅館『花宿 梅や』
山に囲まれた静かな場所で坂が多い気がする。
夕飯まで1時間。この半端な時間をどう過ごせばいいか混乱している。
歳が歳なのであまり親と一緒にいるのがイヤになる年頃ってやつだ。
そんなわけでいち早く温泉に入ることにした。
エレベーターで1階まで降りる途中で女の子が1人入ってきた。
宿泊客だと思ったら着物を着ていたのでこの旅館でアルバイトでもしているのだろうか?など後ろ姿を見ながら色々空想を膨らませていた。
1階に到着すると早々と降り去ってしまった。
俺はそのまま風呂に向かった。
風呂入り口にあるのれんをくぐるとおじいさんとすれ違った。
脱衣所には誰1人姿はなく、もしかしたらあのおじいさんは一番風呂を終えたところだったのかもしれない。
浴場はあまり広くはなかったが、木造で天井付近の壁には小さな丸い窓がついていた。
あんな高い窓から外を眺めることはできなくね?とか思いながら貸切状態の浴槽を泳いだ。
疲れたので、じっとしているとエレベーターで会った女の子を思い出した。
黒髪で後ろ髪は腰くらいの長さでクセのないストレートだった。
思春期真っ盛りなのでそんなことばかり考えてしまうのかもしれないが、後ろ姿を見ただけでも可愛いと思った。
妄想がエスカレートしないうちに風呂からでることにした。夕飯の時間、和食を食べた。本当はバイキングになるはずだったが、健康思考な親のおかげで長生きできそうだ。
就寝の時間、家族のいびきがうるさくてなかなか寝付けなかった。
夜に外を散歩するのが好きだったので、こっそり出歩くことにした。
外は雨が降っていた。山の天気は変わりやすいってことだろう。
とりあえず旅館の玄関の階段で夜の空をただ見上げることにした。