横たわっているゆいの姿からは、あの笑顔が想像出来なかった。
「花音ちゃん…。」花音が振り向くと、五十嵐が疲れきった感じでたっていた。
「わざわざ、ありがとうね。ゆい、あんななっちゃったよ」五十嵐は、声を震わせていた。
花音は、あんなに大人に見えた五十嵐が、とてもか細く感じた。
花音と五十嵐は、集中治療室のガラス越しにゆいと寄り添う母親の姿を見つめていた。
「花音ちゃん。ゆいは、僕の姪っ子なんだ。」
「えっ!」
「ゆいの側に寄り添っているのが、一番上の姉。僕は、四人兄弟の末っ子でさ!ゆいは、年の離れた兄妹のような存在なんだ。…あんな…姿」五十嵐は、言葉を詰まらせながら、話を続けた。
「ゆいは、生きているけど生きてないんだ」
花音には、五十嵐が言っている意味が分からなかった。
「脳死状態なんだ。今から脳死判定をするらしい。ゆいは、もう…笑わないんだ。もう。」
花音は、言葉にならなかった。ましてや、もう、起き上がらないなんて信じられなかった。
そこに、生きている事実があるのに…。
花音は、時間が立つにつれ、ゆいが死んで行くのを待っているようで、そこから逃げ出した。
ロビーに行くと、五十嵐とゆいの家族が医師と話をしていた。医師が立ち去ると、母親は、崩れ落ちた。
菜々は、ゆいの母親の元に行って、寄り添っていた。花音は、自分の無力さを感じた。
ロビーでただ…座っていた。「はい。」五十嵐が珈琲を花音に差し出した。
五十嵐は、花音の隣に座ると一つ大きなため息をついた。
「先生がね。脳死判定で脳死と判定されましたってさ。脳死の場合、臓器の提供は、どうしますか?だって。事務的に辛い事をどんどん聴いてくるんで…頭の中 ぐちゃぐちゃだよ。」
(生きているのに…死んでいる。だから、もう、いらないって事?)
ギリギリまで、命を繋げるのが医者じゃないのか!花音は、怒りが込み上げてきた。しかし、五十嵐の表情は、無だった。
悩んでいる。花音は、そう感じた。
花音は、五十嵐に聞いた。「何を考えているんですか?」
五十嵐は、ゆっくり、話し出した。「ゆいの身体は、少しずつ死んでいくんだ。それが…脳死だよ。今ならゆいの臓器が他の人の中で行き続ける。でも…まだ、生きてるのに…」
その後、どれだけの時間たっただろう。
五十嵐は立ち上がると、ゆいの母親の元に行き話を始めた。