1993年9月
「…死んだの?」
「あぁ、死んだよ」
「人が死ぬ瞬間って初めて見たけど、あまりいいもんじゃないわね」
この日の一週間前、澪の店に一人の男が訪ねて来て一枚の写真を見せた。
「この男、この店によく来ているな?」
「…い、いいえ…知らないわ」
澪の何かに気付いた様なハッとした表情と、ぎこちない対応を一瞬で見破った男は澪にこう言った。
「三百万…欲しくないか?」
「ご協力ありがとう」
「彼に気付かれない様に臨時休業の貼り紙するの大変だったんだから…ハイ、約束の三百万は?」
「何の事だ」
「ちょっと!どういう事よ!」
「これだから日本人は困る。我々中国人との契約は当てにしちゃいけないという昔からの教訓をまだ生かしていない…愚蠢第日本人(愚かな日本人め)」
そう言い放って澪に向けた拳銃の引き金を引いた。
「未来光(ウェイライグアン)!」
チャイニーズマフィアの合言葉であり、任務が無事遂行された時に言う“決めゼリフ”が、男女が折り重なって倒れ伏している店内に響き渡った。
この日朝から降り続いた激しい雨は、次の朝を迎えても降り止む事はなかった。
−完−