花音は、あんな表情の母親を久しぶりに見た。
いつか、仕事で行き詰まった時に真剣な眼差しで辞表を見つめていた母を花音は、知っていた。
その時以来だった。
いや、花音に見せたのは、初めてだった。
花音がソファーに座るとしばらくして母親は、話を始めた。
「花音。来年、3年生だね。大学行きたいと言っていたけど、どうするか決めた?「うん。そうだね。でも…お金は?」
母親は、笑いながら「ママを誰だと思っているの?エリート部長さんよ。お金の心配は、いらないわよ。」
花音は、ホッとした。
「じゃあ、ちゃんと志望校決めておく。」
花音は、そんな話をするために呼ばれた訳ではないだろうと思った。
すると、母は、また話を始めた。
「花音は、17歳で今、いろんな事を経験して、いろんな事を感じている歳だと思う。また、受験を控えて更に大変になってくるでしょうが…。ママは、最近の花音が、とても生き生きしていて、何だか、大人になったなぁーって。」花音は、照れくさかった。
母は、続けた。「でね。ママもそろそろ、自分の道を進めたいの。ママ、結婚してもいいかな?」母の言葉に驚いたが、予想はしていた。
母が時々、同じ男性に車で送ってもらっていたことを知っていた。
「あっ、そうだった。うん。いいんじゃない。ママ、まだ、41だし、っていうか…。41には、見えないよ。娘から見ても。で、相手の人とは?」
「うん。32歳で、取引先の会社の人。もう…5年になるかな…。」母親は、照れくさそうに話した。
花音は、母が自分のためにずっと我慢していたんだと思った。
仕事をしながら育ててくれた母に心から幸せになって欲しいと思った。
「ママ、今度、連れて来てね!家の前で帰さないで!」「あらっ!もう!見てたのぉ〜!」母親は、真っ赤になっていた。
それから…花音は、いろんな事を母と話した。
そして…季節は過ぎていった。2年後。
「花音!待った?」沙希は、相変わらずだ。「あれっ?まだ?」沙希が聴くと、「うん。一緒に来るって」花音は、化粧を直した。「あっ、来た。」沙希が手を振るその先には、菜々と五十嵐がいた。
「花音、沙希ごめんね。」謝りながら、駆けつた。「行こうか」花音が言うと四人は、歩きだした。そして、繋がれた花音の右手を五十嵐は、時折握りしめた。
トモにイキる幸せを感じながら、四人は、桜並木を歩いく。