「いいのか、シャンバラに送れば修復も可能だぞ」
洞窟を塞いだ巨石の前に立つ半次郎に、ノアが背後から語りかける。
彼は折れた刀で構えをとり、静かに気を立ち込めながらその問いにこたえた。
「今の私に必要なのは、この刀にすがることではなく、手放す心の強さだと知りりました。
それに、なによりもこの刀自体が主の元に帰りたがっていますから」
半次郎は巨石に僅かな筋をみつけると、誰にも抜き取れぬよう、そこに深く突き刺した。
『私は、ただ半次郎殿に甘えていただけだったのですね。貴方にはさぞや歯痒いことだったでしょう。
私はもう迷いません。
次にここへくるのは、なすべき事を成した時です』
「別れは済んだか?」
「はいっ!」
澄んだ笑顔でこたえる半次郎。
「ならばゆくぞ、甲斐の国にある通路封鎖が急務となったからな。
信玄がその刀に興味をしめしたのならば、シャンバラの存在に気付いたやも知れん。僅かな可能性でも、芽は摘んでおかねばならぬ」
「…はい」
二人は一路甲斐の国を目差して馬を走らせた。
それは半次郎にとって、十年ぶりとなる帰郷でもあった。