相手ピッチャーは渾身のストレートを投げてきた。
Aも渾身のフルスイングで迎え打つ。
固唾を飲みながら見守る大観衆。
Aのバットはついにボールをとらえた。
舞い上がる打球。
外野フェンス目掛けて追いかけるセンター。
その間もAは全力で走る。
打球はセンターのすぐ真上のフェンスで激しく跳ね返り、外野の定位置辺りまで大きく転がった。
Aはすでに二塁を回っている。
ようやくショートがボールに追いついた時、Aはなんと三塁を蹴り、ホームに向かおうとしていた。
三塁コーチは慌てて制止したが、Aはまったくスピードを緩めようとしない。
まさかのホーム突入に、ショートも驚いてキャッチャーに送球する。
壮絶なクロスプレー。
津波のように滑り込むAに、キャッチャーは強固なブロックで対抗した。
静まる観衆。
そして一呼吸置いた後、審判が叫ぶ。
判定は――セーフ。
歓喜の大歓声が球場全体にこだまする。
たちまちチームメートがAを取り囲み、祝福の輪を作る。
予告ホームランは、生涯初のランニングホームランで幕を閉じた。
Aはずっとスタンドに手を振り続けていた。
Aの現役生活、最後の夜の出来事だった。